地中へのエレベーター
topへ
わたしは、視察旅行と題した一派に連れられて湖畔に佇む
白い施設に向かっていた。
どういう経緯で参加することになったかは憶えていない。
湖畔の施設は一般に開放されているところでプライベート
で来たことがあったのだろうか見憶えがあるのを感じていた。
わたしたちは施設に着いたものの施設内には立ち寄らず、
外の小道を下っていって施設の脇に周り、何もないドロの
水溜りがあるだけの場所に案内された。
"ここに何があるのかというのか?"
そう思っていると、泥の中からブクブクと水泡が現れ、やがて
勢いは激しさを増し泥の水溜りからエレベーターが現れた。
扉が開く。
周囲の人たちがそのエレベーターに躊躇なく乗り込む。
乗り込み振り返った時にはわたしが最後だった。
エレベーターが出現するまでの間に関係者から案内があった。
"これからあなたの理解を超えた現象を目の当たりにします。
どんなことにも受け入れなさい。動揺してはいけません。
パニックになれば大変なことになります。
あなたの持つ常識を捨てなさい。そしてすべてを感じなさい。
そうすれば、いかに生命の神秘がすばらしいかがわかる
でしょう。
それと・・・五感を決して使わないでください。"
"?"
わたしは、何のことを言っているのかわかりませんでした。
エレベーターの扉が閉まり下へ向かいました。
エレベーター内の壁は岩のような粘土質の泥のようなものが
こびりつきゴツゴツしていて、緑色の網が全体を覆っている。
室内灯は工事現場に使う花の蕾のようなカタチをしていました。
緑色の網から粘着性のある液が滴り落ち、誰かの顔につき
ビックリしたのだろうか悲鳴が聞こえるや否や壁が迫ってきて
瞬く間に泥水で室内がいっぱいになり…意識だけが残され…
遠くから何かがやってくるのがわかる。。
それはだんだん近づいてきて…
マンタのような…クラゲのような…それはわたしの顔を撫でる。
そうしたうえでそれは正面からじっと瞳を光らせわたしを見る。
しばらくすると、それは気紛れにわたしから去っていった。
暗闇の中に光っているのがわかった。
蛍光色で縁取った生物や、そのほかにも生物全体が蛍光体
のものもいた。
さまざまな見たこともないような生物と遭遇し心地良い気分に
なった。
するとエレベーターの扉が開き、まばゆい光がわたしを射した。
そこはすべての壁・床・天井がまっ白な研究所であった。
おそらく、地中奥に位置している空間なのであろう。
エレベーターの扉が開くとともに大量の泥水が溢れ出し、
一緒にいた者も掃きだされる。
そこはまっ白な空間に泥まみれの人間がわさわさしている
異様な光景だった。
近くには泥を洗い流すための洗浄液が入った四角くて大きな
青いランドリーバスケットが用意されていて、異空間から意識を
取り戻した、いや身体を取り戻した者は皆、付いた泥を流そうと
一目散にそのバスケットを目指す。
すると、集っていたところから悲鳴が聞こえた。
「ぎゃぁぁぁああああ!!」
見ると、洗い流す者の中に瞳・鼻・口がない者が……
よく見ると、その者だけではない、何人かの者までが何かの
顔のパーツがない。
「こんなことがあるなんて…どういうことか説明してくださいよ!」
関係者に詰め寄る。
すると関係者は、
「あの者たちは信じられない光景に動揺してしまったんじゃよ
そしてその動揺が彼らの関心をかってしまったのだ。
彼らの正体を言えば存在そのものが不安定で、存在こそある
ものの物理的に確認できない存在。
見る・聞く・嗅ぐ・食べる・触るは彼らにとって格好の関心材料。
動揺によって五感を使ってしまい結果として奪われてしまった。
あれだけ五感を使うのは禁物だと言ったのに……」
「それでは、奪われたあの者たちの将来は……?」
わたしは、なおも詰問をする。
「そうじゃのう…
たしかにあの者たちにとっては奪われてしまったことにより
不自由な人生を歩まなくてはならなくなるだろう。ただそれは
無駄にはなってないのじゃよ。彼らの瞳や耳や鼻になり今でも
大切に使われている。
彼らに貢献したのだ、それはそれでいいではないか。
君もそうは思わないか?」
「そんなことが許されると思っているのか?」
わたしは呆れるまま地上に戻るためエレベーターに乗った。
エレベーターの全員がもうすぐ悪夢から開放される…
上に行けるものだと確信していたのだが・・・
エレベーターの扉の閉まりかけたその瞬間
誰かが下に行くボタンを押しさらなる悪夢がはじまるのだった。
終