別れの駅

  
   

ぼくらは、列車に乗っていました。
父と母とぼくで、行楽で旅行に行こう。
そんな楽しい旅行の計画に胸を躍らせて、
この日を待っていたのでした。

「ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン」

列車が揺れ動いてます。
ぼくたちは、遠距離列車の最後尾の車両に乗っていました。
ぼくは本を開き、行き先の観光名所など下調べをしています。

はっと、気付くと乗っている列車の座席はみな、
エンジ色の格調ある木目で造られて、
それは明治期を思わせるような
今とは違うレトロな雰囲気の列車に変わっていました。

窓の外を見ると、戻りの線路がありません。
まさに列車は単線を走っているのです。
そのため走る列車のすぐそばまで、綺麗な草や花が咲いて、
その新緑の色で輝いている草花に、エンジ色の木目の車内の
情景といったら、他に言い様のないほど素晴らしく、
あまりにも素晴らしいので、乗っている列車がカタチを変えたこと、
ぼくは、それにはまったく何も気にも止めませんでした。


気分が頂点に行き着く、そんな時、
「次の駅は〜 ・・・・」と車掌のアナウンスが聞こえました。
なにやら、聞き慣れない駅名。。

すると、陽気な車内が急に静まり返って、
ぼく独りが浮いてしまいました。
母は、ぼくに言いました。
「おとうさんは、ここで降りなくてはならないのよ。」
「え!? 何で!?」
ぼくが返事をすると、母は場所を変えるように言いました。
二人が客席をあとにしながら、振り返ると
父は黙って、下を向いていました。
「おとうさんは、ここでお別れなのよ」
「え!? あとで合流するんでしょ!?」
母は、首を横に振りました。
「いつ合流するの?」
「また会えるんだよね?」
ぼくの一方的な質問に、母は黙って首を横に振りつづけ、
やがて、重い口を開きました。
「もう二度と会えないの。これが最後の別れとなるの。
涙を流したらお互いに辛いだけだから、笑顔で送るのよ。
わかった?」
ぼくは黙って頷き、客席に戻ると、
列車が駅に着き、とうとうお別れの時がやってきてしまいました。
その駅のホームは、列車が一両か二両しか停まれないほどの
大きさで、コンクリートで丘を造ったような、屋根のない、
そんな田舎駅でした。


ぼくは、列車の扉まで送り、父の肩を抱きました。
この肩の感触を忘れないように。。。
両足を、あの世であるホームにつけてしまうと、
こちらの世界にもう二度と戻ってこれなくなるので、
列車から足を決して離さんなと母から言い聞かされていて、
列車とホームに片足づつ乗せて、
必死に笑顔を作って抱きしめました。

こみあげる気持ちから、
「いっそのこと両足をあの世に投げようか。。。」
そんなことを考えたその時、
突然、母の顔が思い浮かんで、なんとか思い留まりました。

列車の扉が閉まって、ホームの上に立つ父の姿が
小さくなって、見えなくなって。。。。

客席に戻ると、急に涙が眼からあふれて、ポロポロと流れ、
ぼくは車内の床に泣き崩れてしまいました。
乗員も皆涙を流し、ぼくに詰め掛けて励ましてくれました。

悲しみから立ち直りつつある時、次の駅がやってきました。
到着すると、通路のドアが開き、子連れの親子が入ってきて、
私の席の前に座りました。

しばらくして、小さな幼いその子がぼくに話し掛けてきました。
その呼びかけにわし(ぼく)はΣ(*゜ロ゜)ハッ!!としました。
「ねぇねぇ、おじぃ〜〜ちゃ〜〜〜ん!」

「!!」



それは遠い夢の物語


   

あとがき

大切な人との別れがある一方で、
今後の大切となる人との出会いがある。
「はるか昔から、涙と喜びが繰り返されている列車。」


人生ってそんな列車のようなものなのでしょうね。。


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