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明るくなって安心したのか眠くなって寝てると、
外から小窓を叩く音がします。
「トントン、トントントントン」
ふと見ると、窓ガラス越しにおじいさんが見え、
おじいさんが叩いていたのでした。
“やっぱり、人が住んでるんだぁ。無人島っていう話は
デマカセで・・・だから、街の騒音が聞こえてきたんだ”
そう思って納得し安心して、ガラス戸を開けました。
すると姿が見えません。
“あれれ?? どこ??”
「ここじゃよ」
急にわたしの耳元で囁かれ、びっくりして振り返ると
誰もいません。しかし、声だけが聞こえてきました。
「コンサートホールに行くには
こっちに行ったらええんじゃろうかのぉ??」
「わたしもよく存じませんが、
そちらに行ったほうがいいと思います。」
わたしは、硬直した状態でさりげなくやりすごします。
「ありがとう」そう聞こえて、
そのおじいさんの声は聞こえなくなりました。
しばらくして、またもや小窓が叩かれました。
ガラス越しには男と女がいます。
”またかよ・・・”
恐怖を覚えつつ、穏便にやりすごそうとしていると、
小窓を開けられ、その男が顔を出して叫びました。
「この島はどうなってるんだよ!」
二人は個人旅行者でした。
姿なき老人と話しているわたしの姿が不自然な動き方で
それでいて当時の服装ではないことから生身の人間だと
気がつき、話し掛けるに至ったそうです。
三人で話をしていると、奇妙な現象はガラス越しに
現れることがわかりました。
女の話だと、落ちているガラスの破片を目元に近づけて
ガラス越しに見ると、活きている街や人が見えるそうな。
女の話はなおも続きます。
自分の心にある雰囲気もガラスの世界の中に映像と
して反映され、明るい気分なら活気ある街に見えるし、
怯えている気持ちの時なら街も脅威に見えるのだとか。
また写っているガラスの世界がどのようなものかを他人に
見せることができたとか。。
わたしもガラスの破片を目にあてると、ガラス越しに
当時の様子が見えてきました。
自分の心にある雰囲気をお互いに語っていくうちに
それぞれのこの旅に対する目的が見えてきました。
女は過去に受けた心の傷の修復と最悪の場合自殺を
視野に入れ、男を連れ無人島に来たのだとか。
男の方もなにかと訳アリのようで自暴自棄になりつつある
中、女に誘われ来たのだとか。
わたしに課した試練とは、小さなピンチに恐怖を煽られ
逃げに走ってしまっていた自分に実に器の小さい人間だと
気付き、恐怖を克服するために修行し極意を習得するもの
でした。
この奇妙な島の埠頭のような離れ小島で、闇夜の中、
夜明けまで独り座禅を組み・・・
夜になると、何も見えない中、物音がし、
自分の心の中の恐怖が膨らんでいくのが感じながら、
それでも、なんとか抑えつけ、夜明けを待つ。
時間が経つのがどれほど長く感じられたことか・・・
やがて、やっとのこと夜が明けた。
夜が明けると、遠くのほうから船がやってきました。
「そんなところで何やってんだ?」
そう言われ、ふと後ろを見ると、島は跡形もなく、
わたしは隆起したちっちゃな島に座っていた。
船員によると、昔、この辺りは島がありましたが。
地震とともに湖底に沈んでしまったようです。
無人島の生活の証拠となるものはすべて消えてしまった。
わたしの記憶を除いて・・
(完)

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